超光速モールス

追記すると、ほぼ無質量で完全に理想的な剛体であれば実現できるわけでもない。第一には理想的な剛体の棒ならば完璧な直線となるはずだが、その直線の定義が明確にされていない。概念的には決して曲がらず歪まなければ直線と思われ勝ちだが、物理空間における直線とは光の直進によって決められる。重力レンズなどに代表されるように光は恒星等の大質量によって曲げられるが、これは正確には光が曲がったのではなく空間自体が歪んでいるのである。従って、物理的に直線の棒であれば重力の影響をうけ曲がっており、重力の影響を受けず変形しない棒であるならば、空間から見て歪んで見える。すなわち、広範囲重力の影響と相対論のスケールで考える時点で剛体の概念自体が矛盾している。

第二により重要な事だが、いずれにせよそのような棒の片側が押されたと言う情報(一つの出来事の物理的影響の伝播)自体が、全て光速を超える事がないと言うのが相対論の結論であると言う事である。仮に無限に近い負荷をかけても、破壊も弾性変形もしない理想的な棒であっても、"時空自体の実際的な歪み"の影響で伸縮してしまい、ちょうど光速にしかならない。

仮に、空気中の音速に比べて水中の音速が速いようにして真空中の光速に比べて棒の片側が押されたと言う事実が棒のもう片側に光速より速く伝わるのだとしたら、その棒自体が理想的物体ですらなく、SF的な空想の産物であり、また超光速の媒質で構成されている事となり他の架空の超光速通信の手段と何ら変わる所がない。

よって、いかなる非現実的な剛体の棒でも超光速通信は出来ない。概念上のまっすぐな棒とは、物理的に見ると超光速で湾曲と伸縮を繰り返す棒の事である。