真の作品とは

○真の作品とは
さて、全然話変わって、最近気になっている事を一つ。
とある事で話題になったのですが、ロバート・キャパの「崩れ落ちる兵士(Falling Soldier)」と言う写真はご存知でしょうか?
スペイン従軍撮影中、ちょっとした日常風景のつもりが、ちょうどカメラを向けた兵士が撃たれその倒れ落ちる姿を撮影した、と言うものです。
これに対して最近、真贋論争と言うものが出ているそうです。つまりはヤラセ疑惑で、何気ない一コマから死亡した兵士に移るのか、
それとも、笑いながら起き上がるシーンが後ろの方に入っているのかと言った事です。

しかし、これに関して私は非常に疑問があるわけです。
例えば、絵画の世界で言えば、「ダヴィンチの本物」と言えば、絵の美しさ、本人ならではの構図から何から、そして実際に本人が描いたと言う歴史的価値から"真性の価値"と言うものが、芸術とは別の面として、確かにあると思います。

ですが、よく考えてみて欲しいのは、この写真は、「皆が撃たれた瞬間だと思って見た」から価値があった訳です。
ここで言いたいのは、「実際に戦場に山ほどカメラマンを送り、兵士を撮影しつづけ丁度撃たれる瞬間を撮影する事」を望んでいるのではないと言う事です。
逆に問題となるのは、「ある一つの写真が、兵士が撃たれる劇的な瞬間を捉え、それによって人々が心を動かされた事」であり、主眼は受けての精神にあるわけなんですよね。ある意味、真実や裏側の中身よりも、上っ面の表面の方が大切な事ってあります。

1-2年ほど前、とある東京の画家が、前衛芸術画のコンクールで優勝したのだが、あとになってそれがヨーロッパの画家の構図を真似したものであると判明し受賞を取り消される、と言った事がありました。
さすがに西洋人らしく、「彼は受賞取り消しによって十分社会的制裁を受けている」とのドライのコメントなどもありました。
はっきり言って私は、盗作画家よりも、審査員とその他全ての芸術協会の役員の方が辞職するべきだと思います。
それも盗作を見抜けなかった点ではなく、芸術に対して向きあっていないと言う点でです。
そもそも、歪んだ人間にでっかい赤丸の夕日の現代前衛絵画の何がいいのかさっぱり分かりませんが、骨董から芸術までおしなべて、確かに"良い"と言う基準はあるようです。(好意的伝聞推量知識の肯定として)
それで、確かに構図はそっくりなんだけど、じゃあ盗作をした画家の絵は良かったのか悪かったのか? そんなに構図のコンセプトを盗むだけで優勝出来るほどの"エッセンス"があるものなのか?
そして、その"良さ"があると言うのなら、何故盗作ならば絵自体が良くないと言う事になるのか?

なんだかまるで、「食わず嫌いの子供が、すり潰したニンジンを入れたハンバーグをおいしく食べて、あとからニンジンが入っていた事を知らされて怒り出す」ような感じがしますよね。
つまり、キャパの写真も同じです。それでハンバーグ自体はおいしかったのか? また、ハンバーグの味自体の判断基準はどのようなものなのか? それはニンジンが入っているかどうかとは関係ないんじゃないの?と言いたいのです。

・写真と言えば
新聞で読んだのですが、東大だか京大だかの映画論なる講座があったそうです。映画を見てきて、何を見たか発表し討論すると言った内容だったそうで...
とある、学生が「あの映画の中に友情がありました」と言うと教授が、「それじゃあ、その友情って言うのはどのシーンに映っているの? 何分目のどのカット? どのコマのどの部分が友情ですか?」と突っ込んで生徒がブチギレ、110人くらい居たのが、3回で15人くらいに減った(中に黒澤明か誰かもいたとか)とか。
そして、とうとうある生徒が「あの映画の中には....あの映画の中には、扉が映っていました」と言うと、「その通りだ。確かに扉が映っているシーンがある。それではこれこれこの場合の扉の配置や構図と、演出上の効果について考えていこう」と話が進んだそうな。
あっ、なるほどと思わせられる話でしたね。まさしく"眼"が違うと言った感じでしょうか。

内戦の続くアフリカで、赤ん坊が泣いているその横にハゲワシが....と言う写真も論争になりました。
これは、半分撮影者のメンタリティの話になる訳ですが、例えば国境なき医師団の活動とも通ずる面があって
「まずもって一個人の力では1人救うだけでも手一杯なくらいだ。その上いくらでも助けが必要な人はいる。ここでは写真を撮り、それを全世界の人に伝える事で皆を動かす効果の方が大きい」と言う論法な訳です。
どうしても、キャパだって開高健だって、"私も小銃手に取ってぶっ放す"になりそうなもんなんですが、そこで一歩引いてひたすらカメラだけを操作する...と。ヤバイなんでしょうこの特殊戦3番機。笑
ちなみに、ハゲワシと赤ん坊の写真を撮った人は、半ば"賞金稼ぎ"的な紛争地帯にワーッと言って何か撮ってくる類の職種で、30分だけ自由行動って時にあちこち撮りまわった類で、アルコールか薬物中毒で死んだそうです。