アンブロークンアロー 戦闘妖精雪風読みました

出版されてから1年近く経っていますが、出ていると言う事を知って早速購入。

前作からの長い月日を経て、いよいよ謎の敵ジャムの正体は何なのか? それをさらに謎にしてくれる作品でした。
作中で、登場人物自体が自分で突っ込んでいますが、こんな状況で延々考え事や議論ばかりしている場合だろうか?と言ったような印象を受けますね。
なんと言うか作中では現実そのものが錯綜します。(と言う事は、ごく淡々と実際に起こった出来事を描いているだけとも言える訳ですが。)

私は、作者がどういった意図を持って小説を書いたのか、と言う方面から作品を分析するような事は嫌いなのですが。
例えば「恍惚の人」は、作者が来たる高齢化社会や老人の介護と言った問題を取り上げ、警鐘を鳴らすなり注意を喚起する意図を持った作品としてではなく、ただボケたじいさんと、ちょっと暢気な息子、お母さんが心配して苦労しましたと言う一つのストーリーとして読んで行きたい。

でもまぁ、そのアプローチで行くと、作者が劇中で起こる現実世界自体を錯綜させた意図は何なのか? と言う事になりますね。
まるで、純真無垢な女の子が興味津々と言った面持ちでコンピューターに対して「あなたは何を考えているの?」と聞くかのような印象をシリーズを通して受けますね。

まずもってアニメ化された時に戦闘機の描写は素晴らしかった。そして、それはやはり元の小説自体で、細部に渡って丁寧な描写がされていた事が理由です。
「ちょー強くて速い飛行機が、敵の母艦を沈めて来るんです」みたいな話とは違った深みがあるんですね。(そう言うので良い作品もありましたが)

人のあるいは機械の、意識とは何なのか。
それをあるいは問うためには、現実に人工知能でも完成させるか、でなければ一つの状況を仮定して、その中で仮想実験を行ってみるしかない。
その中で、"機械"に対して、"生存本能"と"利己的態度"と言う物を獲得させるには、実はあれだけの大きく込み入った舞台が必要だったと言えます。

大きな嘘小さな嘘と言う話はよく出ますが、リアルでないのは、雪風スーパーコンピューターが搭載されている事ではなく、ジャムの能力とか、突然謎の異次元通路や侵略者が登場したとか、学習機能を持ったAIチップが実用化されていると言った点だけです。
現実には最新鋭の電子機器などと言う物はジェット戦闘機にでもないと搭載される物ではありません。
計算能力の限界値をテストするために、研究施設内に試作するのではなく、実用的で最高の物を一般レベルとは比較にならない予算で製作し運用する、そんな物は軍用以外に考えられないでしょう。
そして、それが一個の個体として独立出来るように様々なセンサーを持ち、一人の人間とのやり取りをすると言えば、パイロットが乗り込むような類のものとなる。
さらに、生と死、そして生存の為に行動すると言う意思あるいは判断原則を持つには、特殊戦のように激戦区に赴いてなおかつ、偵察して帰還するだけが目的の任務を与えられないといけない。

つまり「ここに、ロボット(AI)が居たとしますよね。」の一言を言うためには、これだけの事が必要だったと言う事なんですね。
だって、そうじゃないと技術的にではなく現実的にありえないと言う事になってしまうんだもの。

さて、本編では、ジャムが何らかの意味世界における改変等の行為を行えるらしいと言う事が匂わされてきます。
ので、なんと言うか、物理現象として時系列順に何が起きたの?って言うと、結構分からないと言うか、ある意味起きた現実をそのまま順番には書いているのですが、なんとも。